黒船前夜
ロシア・アイヌ・日本の三国志
渡辺 京二 (著)
出版: 洋泉社
(2010/2/2)
この書は、1850年代のペリー来航~開国より50年以上も前に、日本がロシアを相手に通商開国するという政策転換がありえたという、スリリングな事実を解明したという点で特筆すべき内容を含む。
そのキーマンになったのが日本側では高田屋嘉兵衛と荒尾但馬守、ロシア側は2年間松前で幽囚されたロシア艦の艦長ゴロウニンとその副官リコルドだった。旧著「逝きし世の面影」の続編は、18世紀末から19世紀半ばまでの蝦夷・千島・樺太を舞台に繰り広げられたロシア人・アイヌ・日本人のエピソード溢れる興趣そそる読み物。
千島列島を測量していたゴローヴニン艦長はクナシリで役人に捕らえられ、松前に護送・幽囚となる。だが、幽囚自体は言葉のニュアンスほどには過酷ではなかったようだ。当時の箱館奉行、荒尾の高い見識と公平心、向学心に燃える通詞、牢番卒や庶民の異国人捕虜への同情心などが、当時の日本人の美質として描きだされている。
そして、ゴロウニン救出のために再度来航したリコルドはクナシリで嘉兵衛の船を拿捕しカムチャッカまで連行。その後2人は肝胆相照らす仲となり、再々度の来航時にはリコルドは箱館奉行所との交渉を嘉兵衛に一任するまでの信頼を寄せる。この交渉は捕虜交換をもって一件落着となる。
その場面を描く著者の熱い思いがよく伝わる。
だが、一方で荒尾らが水面下で推進していた日露の交易や国境画定協議の開始は幕閣においてすべて却下され、鎖国体制が維持されることになった。今も続く外交政策の固陋さ、先見性の欠如、そして先延ばしだ。
幕府があの時点で日露の国交を樹立し開国していたならば、その後の日本近代史はおおきくその様相を変えていたかもしれない。そういう想像をかきたてる良書。
カテゴリ:
書籍 / 研究
takadayakahei(
2012年10月28日 22:56)